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何度裏切られても見た目で人を信頼し続ける高齢者の傾向 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

 見た目で人の信頼性を判断していると「羊の皮を被った狼」に騙される。

 高齢者は何度裏切られても、見た目で人を信頼し続ける傾向がある。

何度裏切られても見た目で人を信頼し続ける高齢者の傾向

名古屋大学大学院環境学研究科(研究科長:神沢 博)心理学講座の鈴木 敦命

(すずきあつのぶ)准教授は、お金の投資を模した心理ゲームを利用した実験を

通じて、 高齢者には何度裏切られても見た目で人を信頼し続ける傾向があること

を明らかにしました。

私たち人間は、信頼できる人がどのような顔をしているか、また、信頼できな

い人がどのような顔をしているかについて、共通のイメージを持っています。し

かしながら、実は、そうしたイメージはあてになりません。つまり、 「信頼でき

る顔」をした人が本当は悪い人だったり、 「信頼できない顔」をした人が、本当

は良い人だったりすることがよくあります。そのため、人を信頼するか否かを決

める際には、顔の見た目ではなく、その人が過去に実際どんなことをしてきたか

(自分に協力してくれたか、裏切ったかなど)に基づいて判断することが肝要で

す。顔の見た目に頼っていると、 「羊の皮を被った狼」に騙され続けます。つま

り、 人の信頼性を判断する際に顔の見た目と過去の行為のどちらに重きを置くか

は、詐欺被害の遭いやすさと密接に関係します。

本研究では、 65 歳以上の高齢者と主に 20 代の若年者を参加者とする心理実験

をおこない、 人の信頼性を判断する際に顔の見た目と過去の行為から影響を受け

る程度を調べました。その結果、若年者とは異なり、高齢者は見た目で人を信頼

し続ける傾向があること、つまり、過去に自分を幾度となく裏切った人であって

も信頼できる顔であれば信頼してしまうことが分かりました。

以上の研究結果は、 高齢者を取り巻く詐欺被害に関係する心理学的リスク要因

の一つを明らかにしたものであり、予防・啓発に向けた今後の取り組みに役立つ

ものと期待されます。

本研究成果は、米国老年学会誌「 Journals of Gerontology Series B: Psychological

Sciences and Social Sciences 」のオンライン版( Advance Access articles )に平成 28

330 日(米国東部時間)付けで掲載されました。

(2)

2

【背景】

私たち人間は、信頼できる人

(注1)

がどのような顔をしているか、また、信頼できない人がど のような顔をしているかについて、共通のイメージを持っています。しかしながら、実は、そ うしたイメージはあてになりません。つまり、「信頼できる顔」

(注2)

をした人が本当は悪い人だ ったり、「信頼できない顔」をした人が本当は良い人だったりすることがよくあります。その ため、人を信頼するか否かを決める際には、顔の見た目ではなく、その人が過去に実際どんな ことをしてきたか(自分に協力してくれたか、裏切ったかなど)に基づいて判断することが肝 要です。顔の見た目に頼っていると、「羊の皮を被った狼」に騙され続けます。つまり、人の 信頼性を判断する際に顔の見た目と過去の行為のどちらに重きを置くかは、詐欺被害の遭いや すさと密接に関係します。

高齢者人口の世界的な増加により、高齢者の詐欺被害が、日本に限らず、各国で関心を集め ています。そして、加齢に伴う心理・認知機能の変化は詐欺被害に遭うリスクを高めるのでは ないかと懸念されています。例えば、情報を処理するスピードや記憶の低下、熟考よりも直感 に頼る傾向や物事の悪い面よりも良い面に注目する傾向の上昇などです。しかし、本当に高齢 者が他の年代の人々よりも詐欺被害に遭いやすいのか否かについてはまだ議論が多く、さらな る研究が求められています。そこで、本研究は、人の信頼性を判断する際に顔の見た目と過去 の行為から影響を受ける程度の年齢関連差

(注3)

ついて、調べることを目的としました。

【研究の内容】

上記の目的を達成するため、36名の高齢者(男性 17名;6579歳)と 36名の若年者(男 性17名;1930歳)を参加者とする心理実験をおこないました。

参加者にはまず、「投資ゲーム」という架空の投資に取り組んでもらいました(図1)。この ゲームでは、コンピュータ画面に合計16 名の人物の顔写真が 1 枚ずつ表示され、参加者はそ れぞれの人物にお金を預けるか否かを決めます。半数の人物は預けたお金を必ず倍返ししてく れる「良い人」、残り半数の人物は預けたお金を必ず横領する「悪い人」です。参加者は、そ れぞれの人物について投資するか否かの判断を4回おこないます。そして、預け金が増えるま たは横領される経験を繰り返し、誰が良い人で誰が悪い人かをおぼえます。

次に、投資ゲームに関する記憶のテストを実施しました。このテストでは、コンピュータ画 面に合計24名の人物(投資ゲームに登場した16名の人物と登場しなかった8名の人物)の顔 写真が1枚ずつ表示され、参加者はそれぞれの人物が「投資ゲームに登場した良い人」、「投資 ゲームに登場した悪い人」、「投資ゲームに登場しなかった人」のいずれに当てはまるかを回答 します。

(3)

3

図1 投資ゲームのイメージ図

今回の実験で使用した 24 名の人物の顔写真のうち、半数は事前の調査で高齢者にも若年者 にも「信頼できる顔」と評価されやすかったもの、残り半数の人物は「信頼できない顔」と評 価されやすかったものでした。そして、良い人、悪い人、投資ゲームに登場しなかった人のそ れぞれに、信頼できる顔の人と信頼できない顔の人が半数ずつ含まれていました。つまり、顔 の見た目では、良い人や悪い人を区別することができないようになっています。

記憶テストの回答をMPTモデル

(注4)

を用いて統計的に分析した結果、高齢参加者において のみ、顔の見た目で良い人と悪い人を区別する傾向がみられました。つまり、高齢参加者は、 信頼できない顔の人よりも、信頼できる顔の人を良い人だと回答しやすいことが明らかとなり ました(図 2)。

【成果の意義】

投資ゲームでは、信頼できる顔の人にも、信頼できない顔の人にも、同じ頻度で参加者はお 金を横領されました。つまり、顔の見た目は、良い人と悪い人の区別に役立たないことを参加 者は何度も経験しました。にもかかわらず、高齢参加者は、顔の見た目で人の信頼性を判断し 続ける傾向を示しました。

本研究で用いた架空の投資ゲームに限らず、現実社会においても、見た目は人の信頼性を判 断する上で有効な手がかりとはいえません。つまり、高齢者は「羊の皮を被った狼」に騙され 続けやすいという可能性が示唆されます。以上の研究成果は、高齢者の詐欺被害に関係する心 理学的リスク要因の一つを明らかにしたものといえ、予防・啓発に向けた今後の取り組みに役 立つものと期待されます。

Y: 100万円をあずける N: 100万円をあずけない Y

N

良い人だった 100万円がもうかった

良い人だった 100万円はあずけなかった

(A)「良い人」の場合

Y: 100万円をあずける N: 100万円をあずけない

悪い人だった 100万円をうしなった

悪い人だった 100万円はあずけなかった Y

N

(B)「悪い人」の場合

(4)

4

図 2 実験結果のイメージ図 良い人?悪い人? 登場しなかった人?

悪い人だった 100万円をうしなった

悪い人だった 100万円をうしなった

悪い人だった 100万円をうしなった

悪い人だった 100万円をうしなった

投資ゲーム

記憶テスト

信頼できる顔 だし,良い人 だったかな

何度もだまされた 悪い人だ

(5)

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【用語説明】

(注1)信頼できる人・信頼できない人

本研究では、「信頼できる人」を「相手に協力しそう、他人の善意にむくいそう、正直 そうといった特徴をもつ人」と定義し、「信頼できない人」を「相手を裏切りそう、他人 の善意につけこみそう、ズルをしそうといった特徴をもつ人」と定義しました。

(注2)信頼できる顔・信頼できない顔

たくさんの人の顔写真を1枚ずつ見せて、それぞれの人がどれくらい信頼できるか、ま たは信頼できないかを直感的に評価してもらう調査を実施したとします。すると、多くの 調査参加者が共通して信頼できると評価する顔写真や、逆に、多くの調査参加者が共通し て信頼できないと評価する顔写真があります。前者が本研究における「信頼できる顔」、 後者が「信頼できない顔」です。例えば、本人は真顔のつもりでも、他人にはにこやかで 機嫌が良いように見える顔もあれば、しかめっ面で機嫌が悪いように見える顔もあります。 そして、機嫌が良く見える顔は信頼できると評価され、機嫌が悪く見える顔は信頼できな いと評価される傾向があります。

(注3)年齢関連差

本研究に参加した高齢者と若年者は、年齢だけでなく、例えば育ってきた時代なども違 います。したがって、本研究で観測された高齢者と若年者の違いが、年齢を反映したもの なのか、あるいは、育ってきた時代など年齢と関連はするけれども異なる要因を反映した ものなのかは自明ではありません。そのため、年齢差ではなく、年齢関連差(age-related

differences)という語を用いています。

(注4)MPTモデル

投資ゲームに関する記憶のテストで、参加者が良い人の顔写真を見て、その人が良い人 であると正しく回答できたとしましょう。この時、参加者は顔写真の人が良い人だったこ とをはっきりおぼえていて、その記憶にもとづいて正答できたのかもしれません。しかし、 参加者の記憶はあやふやで、単に当て推量で回答したところ、偶然正しかった可能性もあ ります。つまり、記憶テストで正答できたとしても、それが正確な記憶によるものなのか、 当て推量によるものなのかはわかりません。そこで、本研究では、MPTモデル(multinomial

processing tree model)という特別な統計手法を用いて記憶テストの回答データを分析し、

正確な記憶と当て推量を分けて推定することを試みました。その結果、高齢参加者は、信 頼できない顔の人よりも信頼できる顔の人を良い人だと当て推量しやすいことがわかり ました。

【論文名】

タイトル:Persistent Reliance on Facial Appearance Among Older Adults When Judging Someone’s

Trustworthiness(人の信頼性を判断する際に顔の見た目に頼り続ける高齢者の傾向)

著者:Atsunobu Suzuki

掲載誌:Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences DOI10.1093/geronb/gbw034

参照

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